こんにちは。ホネ山です。
今回は春に行ったインタビューの続きです!!
結構間が空いてしまいましたが、盛りだくさんの後編をお送りいたします!
※こちらはホネ山の持ち込み企画で、商品や金銭はいただいていないため、「PR記事ではない」扱いです。
これまたボリュームたっぷりの前編はこちら↓↓
海外アーティストの方に人気の色とは?
(回答:ホルベヒコさん)
ぶっちゃけ何だと思います?
ホネ山 「え~?意外と定番色で、バーントアンバーとか。。。」(自信ない)
バーント シェンナは5位以内に入っています。
ホネ山 「う~ん、私のおすすめのピロールレッド」
ピロールレッドをお勧めするのは技術者寄りです。(笑)
技術者はピロールレッドやイミダゾロンがいいというんだけど……
実は1位はラベンダー。2位インジゴ、3位 バーント シェンナ、4位オペラ、5位ウルトラマリン ディープ。
(2020年の水彩総選挙と似たような結果ですね!)
ついでにガッシュ。
こちらは1位が バーント シェンナ、2位がイエロー オーカー、3位がアイボリー ブラック、4位がオペラ、5位がパーマネント イエロー ディープ
(こっちは持っていないので商品リンクで色をイメージしてください。
※バーントシェンナだけ商品の画像が出てきませんでした、、、無念)
これ何かというと、ガッシュは油絵的な使い方をしています。
だからちょっと油絵と(売れ筋が)似ています。
技法書の監修の苦労話につきまして
(回答:ホルベヒコさん)
これはですね、絵具って元々画家が自分でつくっていたじゃないですか。もしくは弟子がつくっていた。
日本画の人はご自分でバインダーと顔料を触っているので、絵の具のことをよく分かっていらっしゃる方が多いように思います。
ところが洋画の人はチューブを買っているので、自分でつくらなくなった。その結果、絵具メーカーと作家さんで言葉の齟齬が出始めたというのはあります。
例えば、「カドミウムレッドって濃いよね」と作家さんが発言した場合、恐らく隠ぺい力のことを言っているんですよね。
僕ら(絵具会社)は、カドミウムレッドは隠ぺい力が高いだけで、キナクリドンやイミダゾロンの方が相手を染め付ける力がありますので、カドミウムレッドの色の力は薄いと思ってしまう。
※おそらく、こういうことかな?の図を作りました。あってるかな?
それで、話が食い違ってしまう。
なので、それを踏まえて技法書を作る必要があります。
ホネ山「あ~、絵描き目線の方にちょいと修正するというか」
それもそうだし、そのいわゆる隠ぺい力や着色力の前提を前置きしておかないと伝わらなくなっちゃう。「濃い」そのものが何を指しているかの擦り合わせをしないと通じなくなります。
もう一つはですね。ご存じだと思うんですけど、絵具って建築や車の塗料でつくられたものが僕らにも回ってくるので、その状況に左右されるんですよ。絵具会社のためだけには顔料をつくらないので。
そうすると、50年前と今ではもう様変わりしちゃってるんですよ。短いスパンで変わるようになっている。
例えば「絵の具の科学」という本を30年前に作りました。でも(今出すなら)全部1から書き直さなければいけない。
1から全部試験をしていかなきゃいけない。と。
ってお話でございますね。
※確かに絵具の科学はバージョン2があるようなのです。ホネは古い方しか読んだことないです。
これから目指したいポジションは?
(回答:ホルベヒコさん)
企業としての方向性は、「感性価値の訴求」です。
公式サイトに書いてますが、
映像とか音楽とかゲームとかアニメとか……幅広い部分が関係を築いて、
「融合による新たな価値を創造したい」と。
絵具でいえば白と黒。顔料とメディウムみたいな感じで、人と人、人とテクノロジー、人と文化、文化と文化、文化と社会、アートとテクノロジーいろんな融合を仲介・媒介する会社になりたい。
ホルベインブランドとしてどうかと言われますと、(僕が勝手に言いますが・笑)やっぱりグローバルブランドとしてTOPになるということなんですけど、
120年以上あったらいろんな先輩方がいらして、心血を注いでつくってこられた製品なのですが、
結局今までは「つくること」に集中して、あまり「出すこと」にそんなに留意しなかったんですよね。
僕たちの世代はどちらかというと、「海外に出していく」っていうことを、この何年かすごいスピードで行っています。
ここからは僕の意見なのですが(笑)
ホルベインがつくる物って完成品ではなく「半完成品」なので、作家さんが使って初めて存在する意味を持つと。
その点をわきまえながら、いろんな「材料」を提供することが一番大事だろうと。
作家さんの余白ですよね。そこは潰さないようにしたいなと思います。
目指すポジションと言いますと、
今デジタル分野がスゴイですが、僕らは「リアル」って世界で一線を画すというか、
「リアルの世界だったらホルベインだよね」というところは行きたいと思います。
ちなみにですね、ホルベインの海外のトップ輸出先はアメリカです。
次に中国。韓国も多い。ヨーロッパは低いです。
国は30ぐらいあるのかな?
またこれも僕個人の考えですが、歴史とか文化の側面で言えば、僕は正直日本って「高級品」っていうのはあまりつくれないんじゃないかとおもっていて、、
ヨーロッパって高級品を作るのがうまいじゃないですか。歴史的に圧倒的な身分の差があって、一生遊んで暮らせる人たちが「美とはなんだ?」と突き詰められるような環境があった。 そういう土地は高級品を生み出せるとは思うんですけど。
世界から日本のメーカーを見たときに何を求めるかっていうと、「高級品じゃない」と思っています。
やっぱり「高性能」とか「高品質」だと思うんですよ。
だから「高級」ではなく「高性能」で売っていかなきゃいけないなってのは思っています。
業界の未来はこうなってほしいという願いはありますか?
(回答:ホルベヒコさん)
絵を描くというか、創作する行為は、平和だから出来るというか。
僕たちが作っているもの(絵画材料)も、争いが頻発するとなかなか供給が難しくなるんですよね。
戦時になると当然人命優先なので、絵具のような嗜好品って後回しですよね。
品切れどうこうよりも、画材屋さんに行ってずらっと絵具が並んでいるのは平和だから目にする光景なんですよね。
だから業界どうこうよりは、まずは平和な世の中になってほしいというのがいちばんです。
僕は韓国に3年ぐらい駐在していたんですけど、その時はロシアの絵具ってたくさんありました。
上海に行くとまた違うものがあって、例えばシュミンケさんでもアカデミックバージョンとか、「こんなに安いものあるのか」と。
恐らくこんなにいろいろな国のものが揃っている分野というのは、ほかの業界では無いのではないでしょうか。
ドイツのBoesnerという大きい倉庫みたいなお店があって、世界中の絵具が揃っているんですけど、
やっぱり平和じゃないとこの商売成り立たない。
混乱の世の中でも、クリエイターの人たちって絵を描いてきたと思うんですよ。鉛筆1本でも。
でも画材が並ぶのは平和だからですよ。
(回答:つしまさん)
各メーカーがどれも同じような売れ筋商品だけを製造するのではなくて、それぞれのメーカーが個性に合ったところで勝負してもらいたいなぁと。
お客様も画材屋さんに買い物に来られた時に、(その方が)面白いじゃないですか。もちろん売れ筋品を販売するのも商売ですから必要ですが、「これはうちのプライドで作られている」そういったところをメーカーは持ち続けたいというか、画材メーカーはそうありたいですね。
アナログ画材って本当に苦境にさらされているのか?
ホネ山「CCやインターネットが発達して絵描きの全体人口が増えた(から相対的にアナログが少数派に見える)だけで、アナログ描く人がめちゃめちゃ減っているわけ……ではないのかな?と思いまして。実際のところどうなのでしょう?」
(回答:ホルベヒコさん)
そうですね。2年ほど前から……市場は活性化しています。
恐らく他社さんも同様だとおもいますが、たとえば巣ごもり需要もそうですが、それだけではないだろうと。
今オンラインスクールとか凄いので、授業動画から絵具が紹介されることも多々あり、全体としては去年は良かったですね。
水彩はこの何十年落ちていないです。
ただ、それで利益も増加しているかというとそうでもなく、出荷量は上がっているんですけど原材料費も上がっているので難しいところです。
(回答:つしまさん)
パンデミックやウクライナの戦争があって、世界的に原材料の調達自体が厳しくなって、作れなくなってしまった商品があります。アメリカのゴールデン製品もトップコート類が廃番になってしまいました。
後は海外の絵具を扱っている会社さんはそうだと思うのですが、昨年からの急激な円安が商品原価にかなり影響している。価格改定も苦渋の選択ですがせざるを得ない。
画材マニアになればなるほど価格の感覚がマヒするというお話が最初に出てきましたけど、しかしながら一般的な市場価値がありますね。
「これ、こんなにするの?!」という。そこら辺のせめぎあいがあります。
原毛が手に入りにくくなっていると聞くが、筆を買うのは今のうちなのか?
(回答:つしまさん)
いつ入手困難になるかはわかりませんが、質の良い天然毛の筆をご購入できるのは今のうちだと思います。各画筆メーカーは、良質の天然毛を入手することが年々難しくなっているはずです。
ホルベインはかなり昔から『リセーブル』というセーブル毛(イタチやテンの毛の総称)を模した合成繊維毛のシリーズを開発し販売しています。
これ(ホネ山が手に持っていたブラックリセーブルのSQ水彩筆)も、リス毛に似せた合成繊維毛のブラックリセーブル毛と、天然のリス毛を混ぜて作られていますが、とてもご好評をいただいております。
このように、どんどん合成繊維毛の技術が進歩していますので、我々が使っても、高級な天然毛に引け劣らない合成繊維毛の画筆もどんどん世に出ています。
原毛自体は天然物がなくなってきますけど、我々メーカーも負けずに良いものを作るよう努力をしておりますので、その点はご安心ください。
ホネ山「メーカーの技術もだんだん上がってくるということですね!」
逆に、イタチとかコリンスキーの筆は値段にかなり幅がありますよね。
これは、天然の毛がすべて良いのではなくて、天然原毛にも、固体や部位などで品質の差がかなりあるのです。
ホネ山「同じ筆でもどれがいいかなって?店に行って、たくさん並んでいるのを見て、『これかな?これがいいかな?』って買いますが、全然分からないんですよね(笑)」
人間もそうですが、人によって髪の毛の質は皆それぞれ違いますよね。
動物の毛も同じなので天然原毛の筆は、同じ毛で同じクオリティのものを作りづらいというデメリットもあるのです。
ホネ山「職人技なんですね~」
さらに、筆の製造、特に穂先は多くが手作りのため、量産するとたまに穂先が利いていないものもどうしても出てくる。
そのダメなものを検品で省いて、出来るだけ高いクオリティを維持するのが、メーカーの務めだと思います。
アヴァロン&ブラックリセーブル誕生秘話
ホネ山「今日初めてブラックリセーブルを使ったんですけど、スゴイ綺麗にぼけるな~と思いました!」
(回答:つしまさん)
アヴァロン水彩紙、SQ筆、両方開発に携わりましたが、アヴァロンはかなりきついサイジングにしたつもりです。
サイジングがきついと、水彩特有のウエットインウエットや、ドライブラシ、リフティングなどの技法が容易にできます。
アヴァロン水彩紙を開発した時に、「この紙、アヴァロンだね。」とお客様が一発で分かる個性的な水彩紙を開発したくて。
試作の際にかなりサイジングをきつくしたのですが、それだけのサイジングにしていいものかどうか!?かなり悩みましたが、試作品をテストいただいたある先生に、「このくらいやっちゃっても良いのではないですか?」と言われ。
どの紙でも同じだな~というよりも、「これじゃなきゃ描けない」という紙を作りたかったのです。
ブラックリセーブルも、日本画筆の削用筆の発想から来ているのですよ。
腹の部分が膨らんで先がとがっているでしょ?
要するに日本画とかで使える息の長い線が引ける線描き筆の発想です。筆の腹を使えば面塗もできる。
水彩は何本も筆を持ち替えて描くよりも、1本の筆を水洗いしながら描くことが多いので、1本で多用途に応えられる機能が必要でした。
ホネ山「結構筆も、持ち変えるのが面倒くさいんですよね」
SQ水彩筆の場合は、1本で色々な用途に使える。号数の差はサイズの差という考え方。
穂先が利いて、絵具の保水力があり、息の長い線が引け、面塗りもできます。
意外と大切なのは、紙に絵具がドバっと行かないこと。保水していること。
そういう筆を作るのは「毛組み」の仕方に工夫が必要になります。
だから原毛の質だけじゃなくて、仕立て方、どう組み立てるかによって大分描き心地が違ってくる。
この筆はSQという筆なのですけど、同じ合成繊維毛を使って、700F、700Rという筆も販売しており、全く描き心地や用途が違います。
なぜゴールデンを代理店契約されたのか
(回答:つしまさん)
世界50か国以上で販売されているアクリル絵の具で、非常に良い絵具であることは前から知っていました。
ターナーさんが日本代理店をされていましたが、諸事情により契約を解除されてしまい、日本で手に入らない絵具となってしまいました。
アメリカ本国の定価を日本円に換算したら1,500円の商品が、日本国内だとAmazonで8,500円でしか買えないのをみて、これは一日も早く何とかしないといけないと思いました。
今まで買えていたものが買えなくなるのはお客様にとってはとても不便です。画材業者として何とかしないといけません。
世界中で買える絵具は、日本の画材屋さんでもご購入いただける環境を作る。これが我々画材業者の使命です。
一つのブランドを流通させるのは、それなりのパワーが必要ですが、「やりましょう‼」と笑
自社ブランドのホルベインともども、お客様にきちっと安定供給していきたいと思います。
ホネ山「あとセット品がありますが、単品に比べてかなりお買い得な気がするのですが、安い理由ってありますか?」
それは、そもそも単色で販売されているチューブより容量が小さいからですね。
価格に関しては、私たちはゴールデン絵具の価格を日本で設定する時に、内外価格差をあまり出さないようにしました。今流通しているゴールデン製品は、1ドル110円時代に付けた価格です。
(※その後6月1日に価格改定となりました。あぶLABO東京でお話しした際も「為替レートが。。。」と苦悩されていました)
アメリカでGOLDENさんが付けている値段をそのまま円換算して下二けたを処理した値段ですから、アメリカの定価そのままですね。
ホルベインが値段を付けているというわけではなく、アメリカ本国の定価に準じて価格設定をしています。
最後に
インタビューについてのやり取りをしていた際に、ホルベヒコさんがメールに書かれた内容が、
凄く「ホルベインらしさ」を表していると思いましたので、紹介させていただきます。
僕が社員採用になった際、師であった当時の研究室長から
「君はサラリーマンになったんじゃない、絵具屋になったんだ」
という言葉をかけられ、この言葉に励まされ、また反省し、これまで業務にあたってまいりました。
他メーカー様も同じかとおもいますが、絵具・画材メーカーというものは、先輩方の為されてきた仕事に絵具を薄くグレーズするかのように
1枚重ねては次の世代に渡すという仕事の積み重ねかとおもいます。
もちろん、利益を追求する企業ですので、変化を嫌うといった形でマイナスに働くこともありますが、本質を見失わないように
今後も企業として、また従事するスタッフ個人も、成長を続けたいと思います。
私は絵の具そのものにワクワクしたり、1本1本を所有することにロマンを感じるタイプなので、
「絵の具は半製品・材料なので、作家の手が入って初めて完成する」というホルベインさんの考え方は逆に新鮮だと思いまして!
製品にもその価値観が現れているような気がするので、これは「文化」であり、会社が大事にしている「哲学」なんだと強く感じました。
皆様もお気づきの通り(?)、1時間ちょっとの中で、物凄く濃い話が展開されました!
取材に協力していただきましたホルベインの皆様、本当にありがとうございます!
感謝しても感謝しきれません!
そして最後まで読んでくださった読者の方もありがとうございます!